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臨床で明確にしておきたい  “ 障害受容 ”

医療用語を考える

 ケガや病気、加齢などによって、誰もがある日突然、身体や心に変化を抱える可能性があります。そんなとき、人はどのように自分の変化と向き合い、新たな生き方を見つけていくのでしょうか。今回は、障害を受け入れるプロセスである“ 障害受容 ”の意味や段階を考えていきます。

“ 障害受容 ”って医療現場ではよく耳にしますが、“ 障害受容 ”ってどういうことなんですか。

“ 障害受容 ”っていうのは、患者さんが障害を受け入れるまでの心の動きを体系的に可視化したものだね。

じゃあ今日は “ 障害受容 ” の言葉について確認していきましょう。


この記事でわかること
  • 障害受容の定義と意味
  • 障害受容を構成する要素
  • リハビリにおける障害受容と各ステージ

“ 障害 ” の定義と意味

 まず、 “ 障害受容 ” を知るために “ 障害 ” の定義を確認していきましょう。

国語辞典による “ 障害 ” の定義

“・物事の妨げとなるとなること。また、そのもの。
・身体機能が正常ではないこと。また、その状態。”
 出典:国語辞典オンライン

“ 障害受容 ” の定義と意味

 “ 障害受容 ” について厚生労働省による定義とその考え方を確認していきます。

厚生労働省による “ 障害受容 ” の考え方

“障害受容とは、自身の障害の特徴や困難さを理解し、ありのままの自分を受け入れるプロセスです。これは単に「諦める」ということではなく、自分自身と向き合い、新たな価値観や生き方を見出していく積極的な過程を指します。”  出典:厚生労働省兵庫労働局

 わかりやすく解釈をしていくと、障害受容とは、自分の障害について正しく理解し、その上で「自分は自分のままでいい」と受け入れるプロセスのことです。これは「仕方ない」という下向きのベクトルではなく、自分の強みやできることを見つけ、新しい考え方や生き方を築いていくこということです。

“ 障害受容 ” を構成する要素

自己理解の深化

 障害を負った後、自分の身体や精神の変化を正しく認識し、それがどのように自己の日常生活や社会生活に影響するのかを客観的に理解することです。これは、単なる医学的な診断を受け入れることにとどまらず、自己概念の変容や新たな自己像を構築することも含まれます。

この時期に問題点となり得ること
  • 自己理解が低いと、リハビリへのモチベーションが低くなる。
  • 障害を否認し、非現実的な期待を持ち続けることがある。
  • 「できないこと」にばかり目を向け、抑うつ状態になる。

現実の受け入れ

 障害によって失われた機能や能力を認識し、それを受け入れることです。否認や怒り、抑うつなどの感情的反応を経て、徐々に障害を自分の個性の一部として受け入れる段階に至ります。

この時期に問題点となり得ること
  • 「なぜ自分がこんな目に遭わなければならないのか」と怒りや悲しみを持つ。
  • 他者と比較し、劣等感を抱く。
  • 反対に受け入れが早すぎると、現状で適応すぎてしまい、回復の可能性を見逃すことがある。

新たな可能性の発見

 障害を持ったことで「できなくなったこと」にフォーカスするのではなく、「新しくできること」を見つけ、それを活かそうとすることです。新たな趣味や職業の選択肢を模索することも含まれます。

この時期に問題点となり得ること
  • 以前の生活とのギャップに苦しみ、新たな可能性を見出せないことがある。
  • 社会的支援が乏しいと、選択肢が狭まる。
  • 周囲の理解が得られないと、挑戦する意欲を削がれる。

アイデンティティの再構築

 障害を含めた新しい自己像を形成し、自尊心を回復することです。障害を持つ前と後で自己の価値観や役割が変化するため、それを再構築する過程を指します。

この時期に問題点となり得ること
  • 以前のアイデンティティに執着し、新しい役割を受け入れられない。
  • 周囲が以前の役割を期待し続け、変化を妨げる。

社会との関係性の再構築

 障害を持つ自分と社会との新たな関わり方を見出すことです。障害により変化した人間関係を再構築し、新たな社会的役割を見つけることが重要となります。

この時期に問題点となり得ること
  • 家族が過保護になりすぎ、自立を妨げる。
  • 友人が遠ざかることで社会的孤立を感じる。

障害受容の内容はわかりましたが、リハビリ現場では具体的にどのように使われてるのでしょうか。

次はリハビリでの障害受容を整理しよう‼

リハビリにおける “ 障害受容 ”

上田による5段階理論

 上田は、障害を受けた人が心理的に適応していく過程を5つの段階で説明しました。この理論は、リハビリテーションや看護師、介護士などの現場で広く用いられています。それぞれの段階の特徴と具体例、問題点、対応の例を詳しく解説します。

上田による “ 障害受容の5段階 ”

・ショック期(Shock Phase)
・否認期(Denial Phase)
・混乱期(Confusion Phase:怒り・恨みと悲嘆・抑うつ)
・解決への努力期(Defense Phase)
・障害の受容期(Adaptation Phase)

ショック期(Shock Phase)

 障害を負った直後、強い精神的衝撃を受け、現実を受け入れられない段階。感情が麻痺し、呆然としたり、混乱したりすることが多くなりやすい状態です。

臨床での具体例
  • 交通事故で脊髄損傷となり、医師から「今後歩くことは難しい」と告げられた患者が、無表情で反応を示さない。
  • 脳卒中で片麻痺になったが、「何が起こったのか分からない」と繰り返し言う。
臨床における問題点
  • 精神的ショックが大きすぎると、医師やリハビリスタッフの説明が耳に入らない。
  • 無気力になり、リハビリの開始が遅れる。
  • PTSD(心的外傷後ストレス障害)を引き起こすリスクがある。
臨床における対応
  • 無理に現実を直視させず、患者のペースに合わせた支援を行う。
  • 家族と連携し、安心感を与える。
  • ショックが長引く場合は、心理カウンセラーの介入を検討する。

否認期(Denial Phase)

「自分は障害を負っていない」「一時的なものだ」と現実を否定する段階。障害の深刻さを受け入れず、非現実的な回復を期待することが多い状態です。

臨床での具体例
  • 「すぐに元通りになる」「リハビリをすれば完全に治る」と楽観的な発言をする。
  • 医師の説明を無視し、退院後に仕事や趣味に戻る計画を立てる。
  • リハビリを拒否し、「まだそんなものは必要ない」と言う。
臨床における問題点
  • リハビリへの意欲が低下し、適切な治療を受けるのが遅れる。
  • 過度な期待を持ち、後に現実を突きつけられた際に精神的ダメージが大きくなる。
臨床における対応
  • 事実を繰り返し伝え、少しずつ現実に気づかせる。 小さな成功体験を積み重ね、障害と向き合う準備をさせる。 強制的に「受け入れさせる」のではなく、患者のペースに合わせる。

混乱期(Confusion Phase:怒り・恨みと悲嘆・抑うつ)

 否認が崩れた後、障害を持ったことへの怒りや悲しみが表れる段階。心理的に不安定になり、周囲への攻撃的な態度や自己否定的な発言が増える状態です。

臨床での具体例

(怒り・恨み)

  • 「なぜ自分がこんな目に遭わなければならないのか」と怒る。
  • 家族や医療スタッフに八つ当たりする。
  • 社会や運命を恨み、「障害者になったのは誰かのせいだ」と考える。

(悲嘆・抑うつ)

  • 何もしたくなくなり、リハビリを拒否する。
  • 「もう生きていても意味がない」と悲観的になる。
  • 自責の念に駆られ、「自分のせいで家族に迷惑をかける」と落ち込む。
臨床における問題点
  • 怒りが強すぎると、医療スタッフや家族との関係が悪化し、孤立する。
  • 抑うつ状態が続くと、回復の意欲が低下し、適切なリハビリが進まない。
  • 自殺念慮(死にたいという考え)が生じる場合がある。
臨床における対応
  • 感情を否定せず、「怒ってもいい」「悲しんでもいい」と受け止める。
  • できることを少しずつ増やし、達成感を感じられるようにする。
  • 必要に応じて精神科や心理カウンセリングを紹介する。

解決への努力期(Defense Phase)

 障害を受け入れ始め、新しい生活に適応しようと努力する段階。「できること」に目を向け、前向きに行動するようになる状態です。

臨床での具体例
  • 義足や車いすを使いこなそうと訓練に励む。
  • 障害者スポーツや新しい趣味を始める。
  • 仕事復帰や社会参加に向けた準備をする。
臨床における問題点
  • 無理をしすぎて疲弊し、再び落ち込むことがある。
  • 「障害があっても何でもできる」と過信し、現実とのギャップに苦しむことがある。
臨床における対応
  • 努力を支援しつつ、無理をしないようバランスを取る。
  • 目標を小さく設定し、達成感を積み重ねる。

障害の受容期(Adaptation Phase)

 障害を自分の一部として受け入れ、適応した生活を送る段階。障害者としての新しいアイデンティティを確立し、社会との関わりを再構築する状態です。

臨床での具体例
  • 車いすを使いながら仕事に復帰し、社会活動を続ける。
  • 障害者スポーツ選手や講演活動を通じて他者の支援を行う。
  • 家族や友人との関係を再構築し、精神的にも安定する。
臨床における問題点
  • 周囲が「完全に適応した」と誤解し、必要なサポートを減らしてしまうことがある。
  • 人によっては「この段階に到達できない」場合もある。
臨床における対応
  • 「受容=諦め」ではなく、「新しい生き方」としてポジティブに捉えられるよう支援する。 継続的なサポートを提供し、孤立しないようにする。

その他の障害受容のステージ理論

コーン(Cohn,N)による5段階理論

コーン(Cohn,N)による5段階

・ショック(Shock) ・回復への期待(Expectation of Recovery)
・悲嘆(Grief) ・防衛(Defense) ・適応(Adaptation)

 障害者でもあった心理学者で、自らの病気や障害に対する心理的回復過程をもとに障害受容を提唱しました。これは、本人が本人の人生に関わる重大な出来事や事実を受け入れるまでのプロセスを示したものであり、介護者の心理的サポートの役に立つものとして、認知症の介護者の心理として使われています。

S.L.フィンク(S.L.フィンク)による4段階理論

S.L.フィンク(S.L.フィンク)による4段階

・衝撃(Shock) ・防衛的退行(Defensive Retreat)
・承認(Acknowledgment) ・適応(Adaptation)

 外傷性脊髄損傷患者を対象とした臨床研究で開発されたS.L.フィンクの危機モデル。危機から適応までの過程を体系化したフィンクの危機モデルでは、“マズローの動機付け理論”に基づいて危機から適応までの過程を4段階でのプロセスであらわされます。

E.キューブラー・ロスによる5段階理論

E.キューブラー・ロスによる5段階

・否認(Denial) ・怒り(Anger)
・取引(Bargaining) ・抑うつ(Depression) ・受容(Acceptance)

 「死の受容の5段階モデル」は、障害受容のプロセスにも応用されています。

今日のまとめ

 上田の5段階理論は、障害受容の心理的過程を示したものであり、リハビリ職や家族が患者の心理状態を理解するのに役立ちます。一方で、「障害受容を必ずしもすべての患者が達成しなければならないのか?」という疑問もあります。
 患者さんの価値観や人生観によっては、異なる適応の仕方があるかもしれません。心理学の研究では、障害を受け入れるだけでなく、「回避型適応」や「挑戦型適応」など、さまざまな適応の仕方があるとされています。障害を完全に受け入れなくても、生活が成り立つ場合もあるということです。
 どちらにせよ、適した支援を行うことで、患者さんが前向きに生きれるならそれに越したことはありません。目に見えるものではないので我々にとっても難しいことではありますが、少しでもこれからの生活のために前を向けるようにサポートできるとよいのではないかと思います。
 「何が本当に必要なのか」「患者さんにとって不可欠なのか、有益か」など、多面的な視点で考えられると、最高のリハビリにも繋がると思います。
 ここからは私見となりますが、患者さんは受け入れなければならないと思わず、自分の心に素直に生きていいとおもいます。
 整形外科の疾患で5か月、脳神経外科の疾患で6か月がゴールデンタイム(回復期)といわれていますが、あくまで統計学的な話です。数年経っていても症状が改善した患者さんや高次脳機能障害の研究で十数年後に改善傾向を示したという報告もあります。
 諦めずに戦った者が最後には一番笑顔でいられるかもしれません。個人差が大きいので全員治ると無責任にはいえませんが、障害を受け入れつつも、よくなる方向を目指すという選択肢もあってもいいと私は思います。

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